ヒロインドリーム

 96年、マップジャパンから発売されたプレイステーションの育成シミュレーションゲーム。
「ときめきメモリアル」の爆発的ヒットを受けて、雨後のタケノコの如くギャルゲーが続出す
るようになる少し前の作品です(その後「トゥルーラブ・ストーリー」がヒットし、ギャルゲーの
氾濫が続くのですが)。舞台は大手芸能プロダクション「ライジングドリーム」が経営する芸
能学校。ここで“ヒロインプロジェクト”なる極秘プロジェクトが始動し、主人公もプロデュー
サーとして呼ばれて参加することに。このプロジェクトには5人の候補生がいて、主人公は
舞木静(まいき しずか)という女の子を三年間鍛えることを任されます。最終的に選ばれ
るヒロインは1人だけ。静がヒロインになるかはプレイヤーの育成次第、というゲームです。
 一見ありがちな育成ゲームに思えますが、この作品には独特の特徴が幾つかあります。
まず主人公は直接静を育成することはできません。とある理由から主人公は静に会うこと
を禁止されており、その為育成にはディレクターと呼ばれる様々なジャンルのスペシャリス
トを使うことになります。プレイヤーは週単位でどの分野のディレクターに指導させるかを
決め、それによって静の各パラメーターが上昇していきます。その他にも様々なオーディ
ションに参加させることによって、「評価」のパラメーターを上げることができます(但しオー
ディションには合格条件があるので、それに見合うパラメーターを上げていないといけませ
ん)。こうして三年間、プレイヤーは間接的に静を育成してゆくことになります。
 また、この作品には通常のゲームテキストというものがなく、進行は音声のみによって行
われます。その為セリフを聞き逃すと話が分からなくなってしまうということも。それだけに
キャラの会話に比重が置かれた作りとなっていて、スタッフもその点をかなり重視していた
ようです。通常ゲームのアフレコは映画やアニメと違い声優を個別に呼んでセリフの一つ
一つを順不同に録音してゆくのが慣例になっていますが、このゲームではキャラ同士の掛
け合いが多いこともあって、声優を一度に集め実際に対面させながらアフレコを行いまし
た。ですのでキャラの会話が非常に自然な仕上がりになっていて、特にギャグ的なイベント
や感動的なシーンでその効果が良く表れています。個人的には大の大人であるディレクタ
ー5人が雁首揃えて「目玉焼きに何をかけるか」で大マジメに口論するシーンが大ウケでし
た(ちなみに私はソース派)。
 このゲームの魅力は、なんと言ってもヒロイン・舞木静のキャラクター性が大きいです。明
るく元気、でも結構ミーハーで子供らしさも兼ね備えている少女ですが、仕事に対する姿勢
は真面目で真摯。しかも努力家。とにかく“育てたい”気にさせてくれる子です。たまに主人
公の部屋にこっそり侵入してパラメーターの数値を全部「えらい」とか「すごい」とかに書き
換えてしまったりしますけど(笑)。それと静に直接会えない主人公は普段占い師に変装し
て彼女と接しているのですが、その時見せる本音の部分や素直な女の子らしい部分が、彼
女の愛らしさをより一層特徴づける演出になっています(「うっらないしさ〜ん」のセリフもラ
ブリーで実にグッド。この“足長おじさん”的設定も非常に上手く作品の中で機能しています)。
そして、何より静を活き活きとしたキャラにしているのが西村ちなみさんによる演技です。こ
れがまさにハマリ役とも言えるベストマッチで、私もこの作品で西村さんのファンになりまし
たし、ご本人もかなり思い入れのあるキャラになっているようです。他にも大谷郁江さん、折
笠愛さん、高乃麗さん、榊原良子さん、大塚明夫さん、藤原啓治さん等々出演しているのは
実力派の方々ばかり(と言うか、よくこんなキャスティングができたものです)。演技に関して
は何の心配もなく聴いていられます。
 エンディングのパターンは17通り。中でもスペシャルエンディングと言われている“スーパ
ーヒロインエンド”は一見の価値ありです。スペシャルと銘打っているだけあって難易度はか
なり高いのですが、その苦労が報われた上にお釣りが来ること受け合い。単に「静がヒロイ
ンになれてバンザイ!」では終わりません。ヒロインの存在意義とは何か、ヒロインが背負う
べきものとは何か、そういう部分まで踏み込んで語られています。これを見た時の感動が、
私にこの作品を個人的名作たらしめてる理由となっています。今回この文章を書くために再
度スーパーヒロインエンドを見たのですが、変わらず感動してしまいました。名作とはそうい
うものではないかと思います。
 ただ欠点が皆無という訳ではなく、育成できるのが静1人であり他のヒロイン候補生は育
成できないこと、スーパーヒロインエンドが事実上トゥルーエンドと化している為これを一度
見てしまうと他のエンディングを見ようという気になかなかなれないことなど、目に付く部分も
幾つかあります。くさなぎほむらさんによる原画も割と癖があるので好みが分かれるところ
かも。また人によってはやはり文章によるテキスト表示が欲しいという意見も多いようです。
ちなみにその後同じ世界観を舞台にした「ヒロインドリーム2」が発売されましたが、私は未
プレイです(ネットでの感想を読む限りですと「1」に比べて評価は低いようですが)。余談で
すが、この作品を作ったスタッフは後に18禁ゲーム会社を設立、何本か作品を作りました
が現在は解散し、原画家のくさなぎさんは最近「もみじ」というゲームにCG関係で参加して
いたりします。
 発売は古いものの、現在廉価版が安価で出ていますので機会があればプレイすることを
お勧めする一作です。

                                          (2001,9,12記)


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