ミラクル☆ガールズ
「ママは小学4年生」の後番組として93年に放送された少女アニメ。全51話。原作
は「なかよし」連載のコミックです。監督は「ペルシャ」「マジカルエミ」等の魔女っ子も
のを手がけ、丁寧な心理描写と情緒溢れる季節感の演出に定評のある安濃高志氏
(但し17話まで)。この作品でもそれは健在で、特に氏が演出を担当した1話は完成
度から言っても特筆な出来映えです。ですが、その完成度の高さが逆にこの作品に
とっては不幸となりました。1話だというのにキャラ紹介も世界観の説明もないままに、
いきなり最終回一歩手前のようなテンションと、イメージ的映像と細やかな心理描写
を融合した抽象性の強い画面作りになっていて、台詞もかなり断片的。後になって設
定が分かってくれば各シーンの意味合いも理解できるのですが、初っぱなである1話
でこれでは、もう視聴者完全置いてけぼり状態。いわば「マジカルエミ」本編をやらず
にいきなり「蝉時雨」を放送するようなもので(って、また分かりづらい例えを)、そりゃ
みんな引きますって。ただ私の場合この1話を見た時に「話は正直よく分からないけ
ど、この異様な完成度の高さは何だ?」と脳天直撃セガサターンのような衝撃を覚え
ました。ここで打ちのめされたことが、現在に至るもこの作品が少女アニメで一番好
きである原因となっています。
その後も明確な形でのキャラ紹介や設定の説明はなく、物語は双子の主人公(松永
みかげ・ともみ)の周囲で起こるちょっと非日常的で不可思議な事件を中心に進んで
いきます(話もほぼアニメオリジナル)。話数を重ねていけば双子が超能力(テレパシ
ーとテレポート)を持っていることは分かりますが、その事実を知っている者が誰に限
られているのか、また何故現状のような人間関係になったのかはずっと不明瞭なまま。
とりわけ二人が身につけているブレスレットとペンダントは、意味深な描写があるにも
かかわらずどういう機能があってどう使うのか、殆ど語られることがありませんでした
(恐らくは超能力を増幅したり、暴走を押さえるコントロールキーみたいなもの?)。毎
回起こる事件も特に理由や原因のようなものは具体的に語られず、ただ漠然としたイ
メージとしてのみ視聴者に伝えられます。このことから一部で「電波系」とも揶揄される
本作品ですが、私は逆に「台詞に頼らず、動きや映像によって何かを表現しようとす
る」という意味に於いて、この作り方はアニメとしてむしろ正解なのではないかとも思え
ました。ただ作画がひどく不安定で、キャラの顔が毎回違うように見えたりと、作品全
体のクオリティはけして高いとは言えなかったことも否めませんが。
特に私が好きなのが、8話の「ところにより涙」。動物園からライオンの親子が脱走。
偶然子ライオンとテレパシー感応したみかげは、ライオンと知らずその子を家に連れ
て帰り双子共々仲良くなります。けれども翌日親ライオンが街に現れて付近はパニッ
ク。機動隊まで出動する騒ぎで、結局子ライオンが見ている前で親ライオンは射殺さ
れてしまいます。ラスト、道路の両端をとぼとぼ歩きながら「泣くなよ」「泣いてないよ」
「なんで泣くのさ」「泣いてないってば」と言って座り込んでしまうみかげとともみの姿に
ただただ涙。ひたすら救いのない話ですが、「超能力とて万能ではない」というアンチ
テーゼ的エピソードに、私はいたく惹かれました。
こんな作りの作品ですから、当然視聴率は低迷。安濃監督は17話をもって降板。
以後監督不在が続き、3クール目からはときたひろこさんが新監督として抜擢され、
原作のストーリーに則した分かりやすい普通の少女アニメになっていきました。その
為前半で描かれた伏線も完全に消化されたとは言えず、一つの作品に二つの世界
観を抱えた印象を残したまま、このアニメは終わってしまいました。ときた監督の担
当した後半部分も悪くはないのですが、個人的にはシリーズ前半が好みだっただけ
に路線変更は残念でなりません。
その後安濃監督とキャラデザの関根昌之氏はOVA「ヨコハマ買い出し紀行」で再
びタッグを組み、その雪辱を晴らすかのように美しい映像を作り上げました。その点
では多少救われた気分がなきにしもあらずです。ちなみに監督を除く主立ったスタッ
フはその後、怪作(笑)「赤ずきんチャチャ」に参加。また後に「CCさくら」の作監で人
気を集め、現在「ギャラクシーエンジェル」でキャラデザを担当している藤田まり子さ
んもこの作品で作画監督をしていたりします。
この作品でもう一つ取り上げておきたいのが、大島ミチルさん作曲の音楽です。特
に前半に使用された曲は美しくも印象深いメロディが多く、それを収録したBGM集V
ol,1は構成の見事さもあいまって私が所有するン百枚のCDの中でも、特に良く聴く
一枚になっています。ただこれも残念なことに、2枚発売されたCDには未収録の曲も
多く、私としては完全版の発売を望むところです。
放送から既にかなりの月日が経ち、LDも入手困難となっている現在では見る機会
の少ない作品かとは思いますが、アニメとして一つの新しい試みに挑戦したという意
味でも、せめて前半部分は一度見てほしい作品です。
(2001,9,10記)
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