「………」
作り話にしては妙な重苦しさがあった。何よりも、それを語るアリアの瞳は今まで
見たことのない悲しみと寂しさに覆われていた。
「人は色々な過去を背負って生きているものです。でも、その過去に囚われ続け
る必要はないと思います。確かにケインさんは過去に多くの命を殺めたかもしれ
ませんが、今度はそれ以上に多くの命を救えば良いのではないでしょうか。少な
くとも、私はあなたの過去を咎めたりはしません。何より、今のケインさんを信じ
ていますから」
三〇〇年の重みを背負ったアリアの言葉がケインの心に突き刺さった。思考が
ひどく混乱し、舌が乾いて声が上手く出てきてくれなかった。
「私があなたに用心棒を頼む理由、これではいけませんか?」
「あ……いや……」
真摯な瞳で見つめるアリアに、ケインは曖昧に頷くことしかできなかった。
「良かった……さあ、お店に戻りましょう。開店準備をしなくちゃいけませんもの
ね〜」
にこりと微笑んで荷物を抱え直すアリアの背中が、ケインにはひどく物悲しいも
のに見えた。そのか細い肩を抱きしめ、守りたくなるほどに……

                                            (了)

                                 (1999 11 24 著)
                                 (2003 3 13 改訂)


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