「実生活に役立つものが上手に出来てこそ、真に砂漠の女王と言えます」
「う〜ん、納得」
とは部下Bの言。島原は不満顔だった。その間にも檻の中から巨大ゴキブリが放たれ、
舞台の上の女性達は各々の武器でそれに立ち向かっていった。
「まぁ、敵さん!」
こうなると一番不利なのはあゆさんと見えた。と思いきやあゆさんは例のスプレー缶を
取り出し、シュッと一吹きした。たちまち巨大ゴキブリは苦しんでひっくり返る。
 おおーっ、と砂漠の民が感心した。どうやら彼等はこのアイテムを知らないようだった。
 他の女性達は巨大ゴキブリ相手に苦戦していた。なかには舞台から飛び出て観客に
向かってくる敵もいて、会場は一時騒然となった。
 結局あゆさんが一位であった。
「おーっと、これは意外な展開だぁっ。面白くなってきたぞぉ。よーし、続いての種目は
穴掘りだ!」
一人ノリノリの司会の言葉で、女性達にスコップが渡された。一定時間でとれだけ穴
を掘れるかを競うというのであった。
「これが何の役に立つというのさ?」
「実生活に必要なのは腕力です。腕力を計るのには穴掘りが一番!」
島原の疑問に司会のにーちゃんはあっさりと説明した。
「そんなもんかね」
もうどうでもいーや、といった様子で島原は呟いた。開始の合図と共に女性達は額に
青筋を浮かべて懸命に穴を掘りだした。砂漠の砂は崩れやすく、穴を掘るのは難しい
ものがあった。
 あゆさんに勝ち目はないだろう。とすると、島原はあのマッチョな女性達の誰かにキ
スをしなければならない。それを想像して、島原はゾッとした。
「……逃げよ」
「待って下さい」
隙を見て逃亡を図ろうとした島原を、背後から部下Bが押さえ込んだ。
「逃げようとしてもそうはいきませんよ。公約したからには口づけしてもらいます」
「てめーっ、他人事だと思いやがって!」
「救世主が約束を破っちゃいけませんよ」
「ぐぬぬぬ……」
島原がもがいているうちに、種目は次へと進んでいた。
「さぁー、盛り上がってきたっ。次は料理バトルだ!」
料理と聞いて少しはマシになると一瞬思った島原だったが、よく考えればこの村の料
理は砂料理である。マトモなものになるはずがなかった。案の定、女性達は砂を材料
に煮たり焼いたりと調理していた。
「うーん、美味しそうな匂いが漂ってきたぞぉ。ではこの審査は救世主にしてもらいま
しょーっ!」
「え゛……」
その言葉に島原は青ざめた。拒もうにも、部下Bががっちりと押さえているので拒絶
は不可能だった。結局島原は砂料理をさんざん食わされる羽目となった。
「さぁ、どれが美味しかったですか?」
「あ、味なんてどれも変わんないよ……おぇぇぇぇっっっ」
島原はすっかり具合悪くなって倒れ込んでしまった。
「おーっと、料理は全員同点だーっ!さーて、コンテストもいよいよ大詰め、ラストバト
ルっっ。種目は文字通り身体を使った美しきバトルだぁぁっっっ!!」
ここぞとばかりに司会のにーちゃんがマイクを振り回して叫んだ。最後は舞台にリン
グが組まれ、女子プロレスリングとなった。
「これぞまさしく『レディ』ゴーだ。女子バトル、ファイトッッッッッッ!!!!!」
ゴングの音を合図に、舞台の女性達がいっせいに取っ組み合いを始めた。その中
であゆさんだけがリングの隅っこでおろおろしていた。部下Bは少し心配そうに彼女
を見守っていたが、島原はそれどころではなかった。
「ぐ、苦じい゛……じ、死ぬ゛……」
砂の上でのたうち、土気色の顔でひたすら悶え苦しんでいた。
「しっかりして下さいよ。もうすぐ決着がつきますから」
それを部下Bが無理矢理引き起こそうとする。
「ぞ……ぞん゛な゛の゛どーでも゛い゛い゛……」
こんな事ならミスコンなんて観るんじゃなかった……今更のように島原は後悔した。
幻の色香に迷った報いかもしれない、と薄れゆく意識で反省する。
「最後に一句……五月雨や、つわものどもが、最上川……」
意味不明の辞世の句を残して、島原はそのまま気を失ってしまった。
 だが、意外にも勝ち残ったのはあゆさんであった。他の女性達は始めからあゆさ
んが弱いと踏んで無視したのである。結果、全員が共倒れし残ったあゆさんの優勝
となったのだった。
「おぉーっっっと、ついに決まりましたっ。今年のミス砂漠の女王コンテスト優勝者は
彼女だぁぁぁっっっ!!」
予想外の結末に司会のにーちゃんが興奮気味に絶叫した。観客も驚きの声を上げ、
口々にあゆさんを讃えた。
「まぁ、ホントに?」
あゆさんは信じられないという顔をしながら周囲を見回した。
「さぁ、救世主の熱い口づけを!」
司会のにーちゃんはそう言うが、島原は既に意識がなかった。白目を剥いたままだ
らしなくひっくり返っている。
「あたし、優勝しましたよ!」
あゆさんは舞台を降りて島原を抱き起こすと、その頬に軽くキスをした。
 え、何故唇にキスしなかったのかって?それはもう、現実はキビシイのである。そ
うそう美味しいことにありつけるはずはなかった。
 そして、島原は三日間寝込むこととなった。

                                               (了)



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