「伝説?と言うと卒業式の日に校庭のはずれの樹の下で女の子から告白されると永遠
に幸せになれるとか、そーいうやつ?」
「なんの伝説だ、それは?そんなものではなく、この地の迷宮に眠ると言われる宝のこ
とだ」
「宝?」
島原の目がきらりと輝いた。
「そう。何でも手にした者は天にも昇るように気持ちよくなる宝だとか」
「天にも昇るように気持ちいい……」
その言葉に、島原は再び妄想全開モードに入った。
「もしや立体映像のバーチャルアダルトビデオ?それとも新感触の性感○ーション?」
何故か島原の場合そういう発想しか思い浮かばなかった。
「いやいや、もっと凄い……そう、最新機能満載の高性能ダッチ○イフとか……うん、
そうに違いない。よし、そうに決まった!」
一人勝手に決めつけて、島原は早くもお宝を手に入れる気になっていた。
「あの〜、だっ○わいふって何ですか?」
その独り言を聞いていたあゆさんが無心に尋ねてきた。
「え?いや、その〜……で、そのお宝というのはどこに?」
ごまかそうとして、島原は船長もどき男に質問した。
「うむ。この岬のはずれの洞窟にあるのだが、中は迷宮になっており、しかも無数の
罠と更には恐ろしい魔物が宝を護っているという噂でな、今まで近付いた者は誰もい
ない」
「なる程、『そいつに触れることは死を意味する!』ってやつか。だがしか〜し、この救
世主の手にかかればそんなダンジョンなどお茶の子サイサイシー。俺のこの手が光っ
て唸る、お宝掴めと輝き叫ぶっ!宝は必ず手に入れてみせるぜっっ!!」
必要以上に力んで、島原は拳を振り上げた。これまでさんざん詐欺まがいの目に遭
ってきたことなど、もはや微塵も覚えていなかった。

 単純思考回路のまま、島原達三人はダンジョンへと入った。岬のはずれにある洞
窟から一歩足を踏み入れると、そこは確かに薄暗い迷宮だった。
「うんうん。やっぱダンジョンはRPGの基本だよな」
恐怖感など全くないまま、島原は松明を手にどんどん迷宮を進んでいった。途中行き
止まりが多々あったが、迷路を進む要領で三人は奥へと向かった。やがて、一行は
金属製の扉の前に辿り着いた。
「うーむ、さっそくトラップか」
島原が唸った。扉には大小の丸印が刻んであり、その輪は無秩序に一ヶ所が欠け
ていた。その脇に備え付けられたテーブルには、用途不明のスプーンのような器具
が置いてあった。
「あ、ここに何やら文字が書いてありますよ」
部下Bが扉のすぐ横の文字に気付いて声を上げた。
「何々……『その素晴らしき瞳をもって彼方を見極めよ』だそうです」
「ふーむ」
スプーンのような器具を手にしながら島原は考え込んだ。
「素晴らしき瞳……瞳……」
何となくその器具を目に当ててみる。その瞬間、島原はパッとひらめいた。
「そっか。視力検査だ!」
扉から少し離れてみると、立ち位置を示すような足形があった。そこに島原が足を
乗せると、扉の丸印の一つが光った。
「よっしゃーっ、ビンゴっっ。まーかせて!俺は視力2.0だ。まずは左っ」
あっさりと、島原達は第一のトラップをクリアした。
 開いた扉から更に進む。続けて現れたのは、テレビと大きな箱形の機械、それに
マイクのようなものだった。
「こ、これはもしや……」
「『美しき声をもって心の扉を震わせよ』だそうです」
「やはり点数付きカラオケマシンか……こいつで百点を出せってことだな」
部下Bの言葉に、島原が呆れた。どこがダンジョンだ、と思う。だがそんなことを気
にしている暇はなかった。
「おーしっ、いくぜ!一番島原、『恐怖の町』っっ」
「ギャーッ」と叫んで、島原は歌いだした。しかし、結果は30点だった。
「な、なんで……」
愕然とする島原。彼は歌うことが好きだったが、実は音痴であった。
「なんのまだまだっ。二番、『愛国戦○大日本』っっ!!もしも〜……」
けれども結果は変わらない。島原は続けて10曲歌ったが、百点は出なかった。
「くそっっ。ここで終わりなのか……」
「あの〜、あたしが歌っても良いでしょうか?」
そこへあゆさんがおずおずと申し出た。今まで彼女の歌声を聞いたことがなかっ
た島原は、興味もあってそれを了承した。
「では、『夜来香(イエライシャン)』を……」
そう言って、あゆさんは歌い出した。なんとまぁ渋いチョイスだ、と島原は驚いた。
あゆさんの容姿ならチャイナドレスを着て歌うと似合うかもしれないと思う。
「也愛這夜鶯歌唱〜夜来香〜、夜来香〜」
だがもっと驚くべきはその歌声だった。それはまさに清流の如く透き通る美しさを
もって、心深くまでしみ渡った。天使の声というのがあるとしたら、こんな声なのか
もしれないと島原は彼女の歌に聴き惚れた。
 見事、カラオケマシンは満点を叩き出した。
「アンコール、アンコール!」
すっかり感動して、島原はあゆさんに拍手を送った。
「そんな……」
あゆさんは照れて顔を真っ赤にした。
「では代わって私が浪曲を……」
「もういいんだって」
部下Bがマイクを取ろうとしたので、島原は素に戻ってさっさと扉をくぐった。
 その後も三人は体力測定、スイカ割り、ダ○スダ○スレボリュー○ョンなどよく
解らないトラップを次々とクリアし、いよいよ最後の扉へと辿り着いた。
「そーいや魔物がいるって言ってたな」
ここへ来て、島原は船長もどき男の言葉を思い出した。
「この扉には特に文字がありませんね」
扉を調べていた部下Bが島原に振り向いた。
「すると強引に突破するしかないか」
力まかせに突き破ろうと、島原は両足に力を込めた。
「うぉぉっっ、震えるほどヒートッッッ!くらえっ、生麦色のオーバード○イブゥゥゥ
ッッッッ!!」
意味のない叫びを発して島原は扉に体当たりした。が、扉は何の抵抗もなくあっ
さりと開いた。力余って、島原はごろごろと地面を転がった。
「何も仕掛けはなかったみたいですね」
部下Bが冷静に指摘した。
「いつつつつっっ。それならそうと……」
頭を押さえながら島原は立ち上がった。眼前には、RPGに良く出てくるような宝
箱があった。
「やりぃぃぃ。お宝ゲットォォッッ……ん?」
良く見ると、宝箱の上に何かあった。それは逆さまになった野○選手の写真だ
った。
「なんで逆さまの○茂選手の写真なんか……」
不思議に思い、島原は写真を手にした。その時、あゆさんがぽつりと言った。
「まぁ、『モノ』?」
「……」
その言葉で島原はピンときた。
「まぁ、モノ?……まぁモノ……まモノ……魔物……これがオチかいっっ!!」
さ、寒すぎる、と島原はこのダンジョンを作った者のセンスに呆れた。
「ま、それはともかくお宝だよな。……ふふふふ、高性能ダッ○ワイフ〜」
すぐに立ち直って、島原は宝箱の前でほくそ笑んだ。舌なめずりしながら一気
に箱を開く。
「いざ手に入れん、天にも昇るような心地よさっっ!」
ガバッ!!……だがしかし、大きな箱の中にあったのは先端が鍵爪のように
なっている一切れの細長い棒だった。
「……孫の手???」
それが今回の真のオチだった。

「いや〜、まさに天にも昇るような心地よさだ」
船長もどき男がぽりぽりと孫の手で背中をかきながら気持ちよさそうに言った。
それを横で眺めながら、島原は恨めしそうに呟いた。
「認めたくないものだな。自分自身の、若さ故の過……以下略」

                                             (了)



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