おもひで

だいありーの過去ログです。

18/10/21

  昨日は秋にしては珍しく入道雲が見えると思っていたら、夕方になって突然のゲリラ豪雨。夏
の名残はまだ居座っていたようです。

 「ダイターン3」HDリマスター版の放送は28話まで進行。シリーズの折り返しとなる名エピソード・
20話「コロスは殺せない」は個人的にも特に好きな話で、やはりはずせません。メガノイドを束ね
る女性・コロスと初めて対峙した万丈は、アシスタントのビューティーを人質にとられながらも攻撃
の手を緩めることなくこう言い放ちます。
「僕はビューティを助けコロスを倒せるほど格好良くはできていない。この一度のチャンスを取り逃
がすわけにもいかない。僕にはそんな余裕もない。ビューティ、死ぬ時はひと思いに殺してやる。
苦しまずにな。これはゲームではないんだ!コロス!殺さば殺せ!」
格好良くはないと言いながらも、そのじつ万丈のなんと格好いいことか。個人的には富野作品でも
ダントツで格好良いシーンだと感じています。それと、これまで万丈に人質作戦が通用しないこと
は何度か描かれていましたが、必要とあらば仲間でさえ見捨てるドライさ、そしてそれを知った上
で万丈と行動を共にするビューティーやレイカのビジネスライクな人間関係がこの回では描写され
ていて、他のロボットものにはないアダルトな作風を実感できるエピソードでもあったり。
 万丈は二枚目や二枚目半のキャラクターを意図的に演じている節があり、更にはビューティー
やレイカが自分に向ける好意を目的のために利用していると読み取れる素振りも見せています。
この辺の人間関係は「エルガイム」のダバ、アム、レッシィの三角関係を彷彿させ、ある意味その
原点が「ダイターン3」ではないかと思えます。万丈の場合ダバよりももっと割り切っていて、メガノ
イド殲滅のためにはあらゆる人間、状況、運を利用している感じで、表向きはヒーローであっても
本質的なところではダークヒーロー的であり(もっとも彼がその素顔を見せるのは最終回で、それ
まではひたすらヒーローを演じ続けているのですが)、その意味でもロボットものの主人公としては
異色ではないかと思えたり。「ダイターン3」のシナリオを担当した松崎健一氏によると、この作品
には「ロボットアニメへのアンチテーゼ」が込められていたそうで、万丈のキャラクター性にもその
一端が見て取れる気がします。
 「ロボットアニメへのアンチテーゼ」と言えば、富野監督がコンテを担当した28話「完成!超変形
ロボ!」はその最たるもので、敵の小型ロボット(名前はなんとバグ!)が内部に入り込んだため
変形が不完全になってしまうダイターン3。まるで子供が玩具をめちゃくちゃにいじった時のような
ムチャクチャな形のまま墜落したり上昇したり、あげくはビューティーやレイカ達が腕や脚に乗り
込んで操縦するものの、息が全然合っていなくて動作や攻撃がバラバラになったり、腕をぐるぐる
振り回したまま必殺技を放ったり、とにかくロボットとしての格好良さが微塵も描写されずに物語
が終わります。不本意ながらロボットアニメを多く手がけていた富野監督ならではのエピソードと
いった印象ですが、こういったアンチテーゼの模索が結果として次回作のファーストガンダムへと
結実するのですから、「ダイターン3」での暴走ぶりも重要な意味を持つのではないかと愚考する
次第。


18/10/24

 昨日は盛岡の藪川が全国で一番の冷え込みに。冬には北海道より寒いこともある藪川です
が、改めて極寒の地であると実感。やはり地形が関係しているのでしょうか。

 「ガンダムF91」で主人公シーブックを演じた辻谷耕史氏が56歳という若さでお亡くなりになりまし
た。脳梗塞だったそうです。今年は声優さんの訃報が多い印象がありますけど、これにはかなり
驚きました。いつかは「F91」の続編を作って欲しいと願っていましたが(むしろ「クロスボーンガン
ダム」アニメ化のほうが可能性は高そう?)、仮にこの先実現することがあったとしても辻谷さんが
シーブックを演じることはないのが非常に残念でなりません。謹んでご冥福をお祈りします。
 https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201810230000775.html


18/10/28

 岩手山は今日初冠雪。秋本番になったと思いきや、早くも冬が近づいてきているようです。

 「ダイターン3」HDリマスター版の放送は38話まで進行。残りあと2話です。毎日2話ずつの放送
なのであっという間です。
 ここまでで個人的に採りあげたいエピソードは、まず33話「秘境世界の万丈」。この回は安彦良
和氏が変名でコンテと作画監督を担当していますが、実は翌年のファーストガンダムへ向けての
準備回でもあったり。ファーストガンダムで試みたレイアウトシステム(安彦氏が第一原画を描き、
各アニメーターがそれを元に動きをつける)を先行してやっており、テレビアニメでこの手法が可
能かどうか確かめたのだそうな。そんな裏事情を抜きにしても、この回はキャラの顔や芝居がす
っかり安彦アニメになっていて(ダイターン3もいつもとプロポーションが違います)、ある意味異色
のエピソードとなっています。しかもゲストキャラの声がデビュー間もない戸田恵子さんというのも
どこかファーストガンダムを彷彿とさせる気がします(ちなみに21話「音楽は万丈を征す」は池田
秀一氏の声優デビュー作)。
 続く34話「次から次のメカ」は富野監督のお家芸、既存のフィルムを継ぎ接ぎして新しいエピソー
ドをでっち上げた回(笑)。総集編とは違うもののなんとなくスルーしても良さそうに思える回です
が、ダイターン3はメガボーグの試作品を万丈が改造して完成させたという設定がさらりと語られ
ていたり。この回はシナリオも富野監督が書いていますが、他にも富野コンテの時に限って万丈
の過去が語られるという法則性が見て取れます。「ダイターン3」でシナリオを担当した松崎健一
氏によると、この作品では各話のストーリーをほぼシナリオライターに任せていて、「万丈が呼べ
ばダイターン3が来る」というお約束さえ守っていればかなり自由だったそうです。しかも万丈の過
去についてこだわっていたのは富野監督だけだったので(苦笑)、コンテの段階で重要な設定を
付け加えていた模様。万丈にまつわる設定が今もって謎だらけなのは、こういう制作事情があっ
たみたいです。
 シリーズも終盤に近づいた36話「闇の中の過去の夢」で、ようやく万丈の家族について触れられ
ます(この回もコンテは富野監督)。ここでやっと万丈の戦う理由が明かされ、メガノイドを作った
父を恨んでいることが描かれますけど、万丈の母や兄が何かしらメガノイドの犠牲になったことは
推測できても、この時点では明確に語られずじまい。万丈の母とコロスの声が同じなのは単に声
優の使い回しなのか、はたまたコロスが万丈の母のなれの果てなのか、これまた不明のまま。仮
にドン・サウザーとコロスがメガノイド化した万丈の父母だったとしたら、彼は肉親殺しという大罪
を犯して物語を終えることになるのですが、その辺も全てはっきりしません。このように「ダイター
ン3」は表向き痛快アクションアニメに見えますけど、深読みするとどんどん怖いことになってゆく
作品でもあったりします。そういう部分も根強い人気がある一端なのではないかと。


18/10/31

 10月最終日は今季一番の寒い一日でした。

 「ダイターン3」HDリマスター版の放送は一昨日最終話を迎えて無事終了。なのでラスト2話につ
いて触れてみたいと思います。
 39話「ビューティー愛しの詩」ではビューティの過去について語られ、かつてビューティの父が万
丈の父に出資したことが結果的にメガノイドを生み出していて、それに対し負い目を持っていたこ
とが明かされます。思えば「ダイターン3」ではキャラの過去について触れられることが殆どなく、ト
ッポなんかは2話で親とはぐれたと言って万丈についてきて、そのまま万丈邸に住み着いていま
すし(親と再会したのかは全くもって不明)、レイカは元インターポールの見習いということだけ1話
で描かれ、ギャリソンに至っては最後まで一切謎のまま。ここまでレギュラーキャラのバックボーン
について説明しない富野作品も異色というか異端という気がします。
 そして最終話「万丈、暁に消ゆ」。この回は名シーン、名台詞のオンパレードですが、個人的に
は万丈がついに本音を明かすクライマックスシーンが最大の見所だと思います。万丈の攻撃に
より瀕死となったコロスの呼びかけでついに覚醒したドン・サウザー(実は今までずっと昏睡状態
で、コロスが悟られないよう隠してきた)は、圧倒的なパワーでダイターン3を追い詰めます。その
時、万丈の脳裏に亡き父の声が響く。「わが子よ、勝てる」と。お約束的な展開なら死んだ者の声
に後押しされて主人公がパワーアップするところですが、万丈はそれを全否定します。
「僕への謝罪のつもりか、父さん。これは僕の、僕自身の力だ!僕自身の力なんだ!父さんの力
など、借りはしないっ!」
言葉通りダイターン3のサン・アタック連続攻撃によりドン・サウザーを見事打ち倒した万丈。です
が、土壇場で彼が口にした本音、それは結局万丈はメガノイドを生み出した父への憎悪を動機に
これまで戦い続けていたということです。
 今まで万丈は「世のため人のためメガノイドの野望を打ち砕く」と毎回口上を述べていましたが、
それはあくまでヒーローを演じる上での建前であって、実際は個人的な憎しみが戦う理由でした。
「海のトリトン」や「ザンボット3」では最終回で善悪の逆転という価値観の転換をやった富野監督
ですが、「ダイターン3」では正義のヒーローを名のっていた主人公が実は利己的な目的で戦って
いたという、ある種主人公の善悪の価値観をひっくり返すことをやったと言えなくもありません(「ダ
イターン」でもコロス達の目的が人類を永遠に平和にすることだったと最終回で明かされ、やはり
善悪の逆転が描かれていますが)。ここに至るまでにも、36話「闇の中の過去の夢」で敵メガボー
グが万丈に対して「人間というものは肉親に対してああも憎悪を抱けるものなのか」と驚愕してい
たり、コロスとの決戦で万丈が「僕は憎む!サイボーグを作った父を」とか「みんな父の亡霊を背
負って僕の前に現れるに過ぎない」と言っていて、伏線はありました。1話から万丈がメガノイドに
対して必要以上に怒りや嫌悪感を見せていたのも、つまるところ父への憎悪がそうさせていたと
思えますし、メガノイドに父の姿をダブらせていたと見ることもできます。よーするに万丈はハナか
ら正義のためにメガノイドを倒していたのではないということに。メガノイドは己のエゴに忠実な連
中でしたが、万丈もまたエゴに基づいてずっと行動していたことになると言えるのではないでしょう
か。そう考えると、万丈が仲間に対しても妙にドライだったり、時にはメガノイド以上に非情で冷酷
だったのも頷けます。
 そして、万丈はあの謎の台詞「僕は・・・イヤだ」という呟きを残して姿を消します。この台詞の意
味についてはいまだに議論や考察が続けられ、答えが出ていません。恐らくはこの先もみんなが
納得するような答えは出てこない気がします。個人的な印象で言えば、この時万丈は無惨に死ん
でいったコロスの亡骸を見つめており、エゴに従って生きたメガノイドの末路に、同じくエゴに従っ
て戦い続けてきた己を重ね合わせ、自分はこのような結末にはなりたくないと思って呟いた台詞
だったのかもしれない・・・と、この文章を書いている時に思いつきました(笑)。「万丈メガノイド説」
を支持する人たちのなかには、自分もメガノイドであるがゆえに同じ死に様を迎えたくないと思っ
て呟いた台詞だと解釈する方々もいるようですけど、私としては万丈はあくまで人間であってほし
いと思っているので、その解釈とは微妙に異なる説を唱えてみました。それと「スーパーロボット大
戦」の影響で万丈がメガノイドであるという仮説がさも定説のように広まっていますが、少なくとも
アニメ本編でそのような設定はありません。あくまでメガノイドの数人が万丈の超人的な能力に対
して「お前は本当に人間なのか」と疑問を口にしているだけです(ただこの台詞が出てくるのは富
野コンテ回に限ってだったりするので、富野監督としては万丈がメガノイドかもしれないという可能
性を示唆する作り方をしていたのも確かですが)。
 ともかく、謎の台詞を最後に万丈は物語に登場しなくなり、生死不明のまま「ダイターン3」は幕
を閉じます。色々な意味でそれまでのロボットアニメのアンチテーゼを目指した作品は、ロボットア
ニメらしからぬラストで終わりました。一人、また一人と去っていき無人の万丈邸に朝日がさすエ
ピローグは「まるで洋画のような」と称えられる美しさで、心地よい余韻とともに作品はフェードアウ
ト。「Vガンダム」や「ターンAガンダム」でも外国映画のようなラストシーンを生み出していますけ
ど、その原点が「ダイターン3」だったと言えるかもしれません。最後の最後までエンターテインメン
トを貫いた(あくまで表向きは)「ダイターン3」は、富野作品のなかでもひときわ異色であり、また
格好良い作品でした。 
 ・・・とまぁ放送に合わせて超駆け足で感想を書いてみましたが、なんか舌足らずだったような。
別の機会にもうちょっと掘り下げることが出来ればと思っているところです。


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