アリアがそう声をかけると、ミリという名のその女の子はにこっと笑顔を作ってウ
ェイトレスの元へ駆けていった。
「ジュース飲む?ミリちゃん」
優しいその問いかけに、女の子はただこくこくと頷いた。そのままちょこんと老人
の隣に腰掛ける。ウェイトレスがオレンジジュースの入ったグラスを出すと、女の
子はぺこっと頭を下げてから口をつけた。もしかすると喋れないのかもしれない。
ケインは漠然とそう思った。
 女の子と老人が並ぶと、なごやかなムードが更に広がった。自分が変に場違
いな存在に思えて、ケインは妙な居心地の悪さを覚えた。この小さな街の片隅
で、人々が一息入れる暖かな空間としてこの店は存在し続けてきたのだろう。そ
んな場所に、今日初めて訪れた余所者のケインが馴染めるはずがないのは当
然のことだった。
「見ない顔じゃな。旅行者かな、若者?」
そろそろ食べ終わろうかという頃、酔いが回り始めたらしい老人がうっすら顔を
赤くしてケインに尋ねてきた。
「ああ……」
冷めた雰囲気を保ったまま、ケインは曖昧に頷いた。
「うむ。世界を旅して見聞を広げるのは良いことじゃ。儂も若い頃は……」
老人の長い昔話が始まりそうなのでうんざりしかけたケインだったが、その時ち
ょうど新たな客がドアをくぐってきた。
「あ、いらっしゃいませ〜」
反射的にアリアというウェイトレスが声を上げた。だが、日常的な平穏は突如乱
入してきた闖客によって瞬時に一掃されてしまった。
「金を出せ!」
その怒声と共に突き付けられるライフル銃。あまりに古典的でお決まりの登場
の仕方に、ケインは内心おかしさが込み上げてきた。
 強盗は二人組だった。アリアに銃を向けているのはやけにひょろりとした長身
の男。もう一人の小柄な男は、小銃を手にしながらもやけにそわそわした様子
で入り口から外の様子を窺っていた。
「あの〜……」
「金を出せって言ってんだよ、こらぁっ!」
どこまでものんびりとした調子のアリアに、長身の男は一際強く、エプロン越し
にも分かるふくよかな胸に銃口を押し付けた。
 こんなのはよくある光景だった。強盗、殺人、恐喝、レイプ、この星でそんな
ものは日常茶飯事である。こういうのは無関心を装ってただ嵐が過ぎるのを待
つに限る。それが正しい生き延び方だった。
「ご希望に添えるほどの金額はないと思いますけど〜」
「いいからさっさとしろっ!」
全然慌てる様子のないアリアの態度に、男の声が一層強くなる。
「こらこら、女性にそう怒鳴るものではない」
「うるせぇっ、ジジイっ!」
老人の余計な一言が怒りに油を注いだ。鈍く光るライフルの銃身が横に閃き、
老人を薙ぎ払った。強打された老人はカウンターの椅子から転げ落ちると、力
なく床に倒れた。口を切ったのか、溢れた血がぽとぽとと零れる。
「お客にひどいことしないでくださいっ」
アリアが小さな悲鳴を上げた。そのすぐ隣では、ミリという女の子が瞳にじわり
と涙を浮かべて恐怖に震えていた。
「何だとっ。てめぇはさっさと金出せばいいんだよ!」
「お金は出します。ですから乱暴はやめてください」
だがその声に非難の色はあっても、動揺している素振りは全くなかった。若い
割には肝が据わっているのか、それとも単にマイペースなだけなのか、ともか
くアリアの落ち着きぶりにはケインも感心した。
 アリアが妙に旧式なレジスターから束の紙幣とコインを抜き取って差し出す。
それは、確かに強盗をしてまで手にするには明らかに少ない金額だった。
「もっとあるだろっ。出せよ!」
「これで全部です。ウチはもともと儲けなんて殆どありませんから」
「ウソつけ。店やっててこれしか金がない訳ないだろうがっ!」
今度は平手がアリアの頬に走った。見る間に白い肌に赤みが差す。
「おい〜っ、いつまでやってんのさ。早く逃げようよぉ〜」
入り口で見張っていた男が情けない声を出した。小心者らしい。せわしなく目
が左右に揺れ、銃を持つ手も震えているのがケインの席からでもはっきり見
えた。

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