「だが次は容赦しない。本気で殺す!」
そこには殺し屋としての気迫があった。心まで射抜くような冷徹な瞳が少年を見
据える。ダンは膝ががくがく震えるのを感じながらも、かろうじて言い返した。
「こ、こっちだって次は本当に殺すからな!見てろ、もっと強くなって必ずお前を
倒してやる!」
「ああ、期待している」
皮肉混じりの笑みを唇の端に浮かべて、ケインは背を向けた。その背中に、少
年の精一杯の強がりが届いた。
「本当だぞ、本当に倒すからな!」
振り向きもせず、ケインはただ軽く手を上げた。ダンはふらふらの足腰のまま後
ずさり、荷物を抱えると逃げるように消えていった。
どこまでも淡々としたまま戻ってきたケインを、アリアは暖かい笑みで迎えた。
「やはりいい人ですね、ケインさんは」
「何を根拠に……」
不満げに眉を釣りあげるケインに、アリアは優しく言葉を重ねた。
「だって、あの子の父親代わりをしようとしているんでしょう?だからあんなアドバ
イスを……」
「………」
ケインは否定も肯定もしなかった。
「優しいです。ケインさんは」
「買いかぶりすぎだ。単に強い相手が多いほど楽しみが増える。それだけだ」
「ふふ……」
それでもアリアは嬉しそうに微笑みを向けるのだった。
「あんたがどう思っているのか知らないが、オレはそんな信用できる男なんかじ
ゃない。無情な殺し屋、それが正体だ」
その笑みに耐えられなくなって、憮然としてケインはそう告げた。いい加減この
くだらない問答はやめたいと思った。
「いいえ、私には分かります」
それでもアリアは折れなかった。
「な……!」
思わずケインが声を荒げようとしたその時、
「三〇〇年も生きていれば、私にだって少しは人を見る目はありますわ」
ひどく穏やかな口調で、アリアが静かに言った。思いかげないその言葉に、一
瞬ケインの思考が停止した。
「何だって……?」
「こう見えても私、三〇〇年以上生きてますから」
「馬鹿な。ふざけているのか?」
そこには嘲笑と怒りがこもっていた。それでもアリアは、変わらずゆっくりと言葉
を紡いだ。
「いいえ……この星の開拓が始まった時、環境適応の為に人体実験が行われ
たのはご存じですか?人類が水と酸素の足りない環境でも生き延びることので
きるよう、当時の科学者によって遺伝子的に様々な実験が繰り返されたのです。
無論成功すれば、全ての人々がその遺伝子を組み込まれるはずでした。その
為試験管の中で数多くの生命が弄ばれ、そして失敗作として抹殺されていきま
した。その中で生まれた変異体、それが私なのです」
俄かには信じられないことだった。少なくとも、ケインには冗談としか思えなかっ
た。
「極度に細胞の老化が遅い個体、それが私でした。不死ではありませんが、不
老と言ってもいいかもしれません。事実この三〇〇年間、私はずっとこのままの
姿です。ですがやはり人は神になることはできないものなのでしょう。その代償
として、生物としては決定的な欠損がこの身体にはありました」
「?」
「子孫を残せないのです。もともと突然変異だった為、子供を産む能力が備わ
っていないのです。一時は狂喜した科学者たちもその事実にひどく落胆し、そ
して本来の目的も達成できないまま実験は中止されました。後は周知の通り、
人々は僅かな水にすがり、酸素マスクを抱えて生活する運命を決定づけられ
ました」
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