Prismaticallization(プリズマティカリゼーション)


 何度目覚めても始まるのは同じ一日・・・ (ゲームソフトのキャッチコピーより)


 「プリズマティカリゼーション」(通称「ずま」)は、99年にアークシステムワークスから
発売されたアドベンチャーゲームです。最初はプレステーションで発売、翌2000年に
はテキストとCGを補強してドリームキャストにも移植されています。 
 ストーリーは、高校三年生の主人公・射場荘司(名前変更可)が近所に住む同級生・
柊明美(ひいらぎ あけみ)と共に、山奥のペンションへ受験勉強の名目で泊まりがけ
の旅行に行くところから始まります。幼なじみとはいえ殆ど付き合いの無かった明美
が、夏休みに入るや突然二人きりの旅行に誘ってきたことに疑念を覚えながらも、そ
の理由を知りたいという想いもあって同行する主人公。ともかくもやってきたペンショ
ンは、かつて近所に住んでいた女性・木ノ下さよりの管理している山荘で、そこで主
人公はさよりの従姉妹で小学生の琴原みゆ、同じく泊まりがけで旅行に来ていた女
子高生二人組、沢村雪乃(さわむら ゆきの)、鳴川澄香(なるかわ すみか)と出会
います。周囲が女の子ばかりの状況に息苦しさを覚えながらも、何事もなく過ぎてゆ
く一日。けれども、翌朝主人公が偶然謎のオブジェを拾った時から、何故か彼らは
同じ一日を延々と繰り返すことに・・・。

 登場人物が同じ一日(または数日)を繰り返すという設定はそう目新しいものでも
なく、ゲームでも「ずま」に限らず幾つか作品が発表されていますが、この作品が特
異なのは、主人公が最後まで同じ一日を繰り返していることに気付かない点でしょう
か。その為、物語は謎を解きながら事件の真相に迫るといったありがちな定石を踏
むことはなく、循環する時間から脱出した後も真実は断片的に提示されるだけで、
明確な答えはないまま幕を閉じます。なので種明かしを期待してプレイする人には
やや肩すかしな部分もあるかと思います。私は始めこそ消化不良を覚えたものの、
実はテーマを語るうえで循環する一日という仕掛けはさほど重要ではないのではな
いかという考えに至り、この部分に関してはさして不満を感じませんでした。これに
ついてはテーマと合わせて後述したいと思います。

 この作品の大きな特徴は二つあります。まず一つ目は独特のゲームシステム。
「ずま」において、ゲーム中にプレイヤーが出来ることはたった一つしかありません。
主人公が拾ったガラスの石柱にも似たオブジェには不思議な能力があり、特定の
場面において、その状況を記録し保存するという機能を持っています。プレイヤー
は繰り返す一日の中で主人公が遭遇する様々な状況を、このオブジェに「記録す
る」かしないか、その二択をしてゆくことになります。記録をすると、再び同じ状況
になった時自動的にその記録が「解放」され、前回とは少しだけ状態が変化しま
す(例えば、バドミントンで遊んだ際にその結果を「記録する」と、最初は負けた試
合が次には勝てるようになったり、1回目はタイミングを逃して取れなかった電話
に2回目は出ることができたり、等々)。そしてこの「記録」と「解放」を繰り返すこ
とで、最初は同じだった一日が少しずつ変わってゆき、最終的には循環する一日
から脱出することができるという訳です。通常アドベンチャーゲームに於いて、プ
レイヤーは場所の移動の選択や会話の選択肢によって物語に介入しクリアを目
指しますが、この作品の場合いわばゲーム内のフラグ管理を直接自らの手で操
作し、無数にある組み合わせの中からクリアする為のフラグを見つけてゆくとい
うことをやっていると言えるかもしれません。これはある意味斬新な発想で、私も
最初は戸惑いましたけど、繰り返しプレイを続けてゆくうちに、単純ながらもよく考
えられたシステムだとかなり感心しました。
 けれども、この「記録」と「解放」には制約がつきまといます。オブジェに記録でき
るのは、最大5つまで。しかも何周か時間を循環して、その間に記録が解放され
ないと自動的に記録が消去されてしまいます。このあたりが、このゲームの難易
度を高くしていると感じられました。あと、循環する一日の中でランダムに変化す
るものが一つ。それは天候です。シナリオ内で午後の天気が晴れたり雨だったり
して、それがキャラ達の行動に大きく影響を及ぼすのですが、これがどちらになる
かは完全にランダム。しかもゲームのクリアに深く関わってくる要素なので、プレ
イヤーは必然的にセーブ&ロードを繰り返す羽目になります。これもまたプレイの
敷居を高くしている要因で、ゲーム発売当初100周繰り返してもさっぱりクリアで
きないとユーザーが不満を大爆発させた理由の一つでもあります。とにかくこの
「ずま」の難易度の高さは半端ではありません。純粋にストーリーに没頭したいの
であれば、攻略情報を頼りにすることを私はお勧めします。
 ちなみに最初の1周目はただテキストを読むだけの進行が続き(およそ30分)、
2周目から「記録」と「解放」が可能となります。そして2周目以降は既読スキップ
を多用して各ヒロイン毎のシナリオをクリアしてゆくのですが、ヒロイン一人につき、
最低でも12、3周はする必要があります。もっともメッセージスキップの速度がと
ても早く、完全に既読状態をスキップするだけなら、1周1分たらずで終わってし
まいますが。



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