以上、何やら「ずま」を誉めているのかけなしているのかよく分からない作品紹介
が続きましたが(笑)、私がこのタイトルを密かに気に入っている理由は、その独特
すぎるゲームシステムとシナリオ、そしてテーマが絶妙に噛み合わさっている点にあ
ります。以下、ネタバレが続きますのでご注意。

−−−−−−−−−−−−−−−−ネタバレ−−−−−−−−−−−−−−−
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 プレイヤーがゲームに於いて唯一できる操作、主人公の持つオブジェに「記録」し、
その記録の「解放」を行うこと、それはストーリー内にあっては循環する世界そのも
のに介入し、現実を変えてゆく力を表しています。作中に出てくるセリフで、そのオ
ブジェは「過去」を記録し続ける装置であり、それを手にすることは世界を手にする
ことと同義であるというのがありますが、まさにプレイヤーは世界が循環しているこ
とに無自覚な主人公に成り代わって、世界の改変を行っていたと言えます。
 けれども主人公は澄香シナリオの最後において、そんなオブジェの持つ力は自
分には不要であると切り捨てます。明美シナリオでも、混乱した時間の彼方へと消
えた彼女を見つけだすのを、「3度呼ぶこと」によって自分の力だけで成し遂げます。
同様に様々な苦悩を抱えるヒロイン達も、世界に対する視点をほんの少し変えるこ
とで、自らを救済する答えを導き出していきます。それはつまり、オブジェがどんな
力によって世界を循環させているかということよりも、繰り返す世界の中にあって、
彼や彼女達が何を成し何を得たのか、そこにこそ物語の本質が隠れているという
ことではないでしょうか(繰り返す一日=現実の日常生活の比喩というのは、穿ち
すぎ?)。現に主人公は物語の最後まで同じ一日を堂々巡りしていることに気付か
なかったですし、彼等がその無限地獄から抜け出せたのも、本当にささいな変化
によるものでしかありませんでした。そのほんのちょっとした変化、いわば「世界の
認識」を、少しだけ角度を変えることによって見えてくるものが、「世界の多面性・
多様性」=作品タイトルである「プリズマティカリゼーション」なのではないかと思う
次第なのです。自らを理論武装で塗り固め、他者との相互理解は不可能であると
自覚していた主人公が、それでも最後には他者という「外なる世界」へ一歩足を踏
み出すのも、その多面性を知ったことにより何等かの可能性を見出したからでは
ないでしょうか。各シナリオのエピローグに漂う妙に爽やかな読後感は、物語がそ
の一点に収束しているゆえではないかという気がします。

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−−−−−−−−−−−−−−ネタバレ終了−−−−−−−−−−−−−−

 加えて、シナリオの構成の妙にも私は感心しました。とにかく細かい伏線があち
こちにちりばめられていて、何気なく出てきたセリフが後々活きてくるという展開に
ニヤリとすることが多かったです。特に明美シナリオと澄香シナリオのエピローグ
は、その見事な伏線の回収に驚かされました。元々理詰めなテキストの作品です
が、そのこだわりは隅々まで徹底されていて、シナリオライターの技量には本当
に唸らされます(明美シナリオの「3度名前を呼ぶと無くした想いが見つかる」とい
うネタには、ラストでニヤリとし、エピローグでのどんでん返しで更に「やられたぁ」
と思いました)。それだけに、同じスタッフにる新作「微塵の月」が制作中止となっ
たことは残念でなりません。いつかどこかで、このスタッフによる新作が発表され
ることを切に願います。

 尚、ギャルゲー的要素の殆どない本作品ですが、ヒロイン達の水着姿やちょっと
えっちな姿を拝める、水着イベントと夢イベントというお遊び要素があったりします。
ただこれを出現させるのはかなり手間がかかり、本来のシナリオを攻略するのと
同じくらい何周も循環する必要があります。けれども特に夢イベントは夢ならでは
の不条理なおかしさがあって、私はおおいに笑えました。脇道イベントですが、発
生させて損はないと思います。

 発売当初はあまりの難易度の高さと、キャラクターデザイナーによるユーザーを
馬鹿にしまくった暴言により、とにかく地雷扱いで評価の低かった作品ですが、ギ
ャルゲーの皮をかぶったアンチギャルゲーであるという本質や、斬新すぎてとっつ
きにくい独特のシステムとシナリオは、実験作としてその心意気をおおいに評価で
きるのではないかと思います。特に普段ギャルゲーを嫌っている方々は、逆にこの
「ずま」に一度触れてほしいと私は切望したり(笑)。エロっちい絵柄に騙されては
いけません。中身はおよそギャルゲー的方向性とは無縁ですから。逆に、ギャル
ゲーを求めてこの作品をプレイするのは危険です。くれぐれもご注意を。
 ちなみに現在プレステ版は廉価版が1500円で発売されています。お手頃です
ので、興味を持たれた方は手を出しやすいのではないでしょうか。ただドリームキ
ャスト版のほうが追加要素もあって完成度は高いので、もはや中古でしか入手で
きないかと思いますけど、個人的にはドリキャス版のほうがお勧めです。
 最後に、私の好きな澄香シナリオのエピローグを。このモノローグはかなりお気
に入りです(注・ネタバレを含んでいます)。

『全てが意味を持っているのかは、知らない。論証できない。知り合いに、神様も
いない。・・・それでも、信じるものが無ければ、生き難い。些細なこと。明文化され
ていない、証明されない、保証されない、全て。自分が在ること。他人が居ること。
明日が、明日も続くこと。・・・それを信じて、進まなければならないのだ。』


                                                                                (2004,7,8記)


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