第6話 ミスコンでミスった?

 周りは見渡す限り砂、砂、砂。右も左も上も下も前も後ろも砂。全くもって砂だらけ。ホ
ントに砂しかなかった。
「な、なんか息苦しいんだが……」
「なぁに、慣れれば平気ですよ」
砂漠の民の代表がアクアラングもどきをはずして言った。中年の、ちょっと渋い感じの男
だった。ドラマなんかで不倫役が似合いそうだ、と島原は思った。
 救世主様御一行は眼前の男の家に招待された。彼等砂の民は砂中に空間を作り、そ
こで生活していた。家と家の間にはパイプが走っており、まるでアリの巣の拡大版のよう
な様相を呈していた。
「崩れないの、この砂?」
砂の壁をさすりながら、島原が不安そうに訊いた。
「大丈夫です。重力コントロールによって支えられていますから」
「重力コントロール、ねぇ……」
世界観は中世以前なのに、部分的に超科学が使われていたりするからどこか不自然だ
った。このアンバランスさは何なのだろうか、と島原は訝しく思う。
「とりあえず菓子などいかがですか」
そう言って差し出されたのは、見るからに砂で出来ていそうな塊だった。
「食えるの、これ?」
「ええ」
中年渋め男の頷きに、島原はその菓子を口にした。だが、やはり砂以外の何物でもな
かった。
「ぺっぺっ……いつもこんなの食ってんの、あんたら?」
「慣れれば食べられますよ」
できれば一生慣れたくない、と島原は内心呟いた。
「聞けば救世主だそうで」
何やら砂が混じっていそうな色合いのお茶を差し出しながら中年渋め男が尋ねる。
どうやら部下Bから聞いたようだった。
「ま、そう言われているけど」
「ではこの世界を救って下さると?」
「どーすりゃいいのか解らんけどね」
「素晴らしいお方だ!是非ともゆっくりしていって下さい」
どこが素晴らしいのか島原にはさっぱり解らなかった。この感覚のズレにはどうにも馴
染めない。
「おお、そうだ。今日はミス砂漠の女王コンテストがあるのです。良かったら御覧になっ
ていきませんか?」
「え、ミスコン?」
その一言で島原の目が異様に輝いた。
「すると美人がいっぱい……」
早くもコンテストの様子を想像して鼻の下をのばす。その隣で部下Bが呆れ顔をした。
「見ます見ます!」
島原は身を乗り出して言った。その熱意に、中年渋め男が提案を示した。
「ではこうしましょう。コンテスト優勝者には救世主の口づけを与えると!」
「いいですねぇ。それ、やりましょう!」
もう島原はすっかり有頂天である。
 その時、
「救世主の口づけ……そんな……あたしも出ます!」
決然と立ち上がったのはあゆさんであった。その真意がどこにあるのか、周囲の男達
には知りうべくもなかった。
「は、はひ……」
あまりの勢いに、島原は思わずたじろいでしまった。
「そんな……私も出ます!」
お約束というか、続いて立ち上がったのは部下Bだった。
「おめーは出るんじゃない!」

 太陽が真上に昇った頃、ミス砂漠の女王コンテストは始まった。砂漠の砂を固めて
作られた舞台の上で、いかにも軽そうなサングラスのにーちゃんがマイクを手に司会
を務めた。
「さぁーっ、全国一千万の砂漠の民の皆様、いよいよ砂漠の女王コンテストの開催だ
ぁ!」
どこにそんなに人がいるんだよ、と島原はあたりを見回した。舞台を中心に集まって
いるのはせいぜい数百人であった。
「今回も選りすぐりの美女達がノミネートされているぞ!そしてっ、優勝者には、な、
なんと救世主の熱〜〜〜い口づけだぁぁぁっっ」
おおーっ、と見物人から歓声が上がる。この村の人々は割とノリがいいらしい。その
群衆の最前列に、さもゲスト席といった感じで島原と部下Bは座っていた。
「では出場者入場ーっっ!」
司会のにーちゃんが無意味に熱く腕を振り上げた。その声に島原も身を乗り出す。
それまで衝立の後ろに隠れていた女性達が、次々と舞台へ姿を現した。さぞや美
女ぞろいだろうと島原が興奮して鼻を鳴らしていると、出てきたのはボディービルダ
ーかアマゾネスか、いかにもタフっぽい男顔負けの筋肉むきむきの女性ばかりであ
った。唯一の例外はあゆさんだけである。
「あ゛……」
島原はあんぐりと口を開け、そのまま固まってしまった。
「び、美女……美女が〜……」
一気に脱力し、その場に崩れ落ちる。司会のにーちゃんはそんな島原の様子には
目もくれず進行を進めた。
「まずは第一種目〜。砂漠の敵との熱きバトルだぁっっ!」
「な、なにぃぃぃっっっ」
島原はさらに仰天した。舞台の裾へ目を走らせると、あの巨大ゴキブリがうじゃうじ
ゃと詰まった檻があった。数人の男が、その檻を舞台の上へと引っ張り上げる。
「な、な、なんでそんなことするんだよ?ふつーミスコンつったら歌うたうとか水着審
査とかだろーが」
「そんなの何の役に立つんです?」
島原の抗議に、司会のにーちゃんは鮮やかに切り返した。
「へ……?」


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