第7話 ドラゴンだって苦労します

 砂漠の民の村で三日間のたうち回り、島原はようやく回復した。
 三日目の朝、三人は村を出発した。
「またおいでやす」
村人達はそう言って見送ってくれたが、
「こんなとこ二度と来るもんか!」
それが島原の感想だった。
「あら、良いところじゃありませんか」
対してあゆさんは終始にこにことしていた。
「そーお?」
島原はあゆさんがミス砂漠の女王コンテストで優勝したことを知らなかったので、何故
彼女が機嫌が良いのか解らなかった。例のキスの件は島原が気絶したことでうやむや
になったものと思い込んでいた。
「で、ガイド。次はどこ行くんだ?」
憮然としたまま島原が部下Bに訊いた。
「さぁ……」
「さぁってことはないだろ」
「そうですねー……この方向ですと、森の民の村へ行きますね」
部下Bはそう言うが、周囲は遙か彼方まで砂漠しかない。島原には一向に見分けがつ
かなかった。
「お前、ひょっとして視力いいの?」
「別に皆さんと変わらないと思いますが」
「じゃあ、どーしてこの方向に森の民の村があると解るんだよ」
「それは……」
島原の問いに、部下Bは少し間を置いて、
「カンです」
と言い切った。
「何でおめーが道案内なのかますます解らなくなった……」
呆れ返って島原は空を仰いだ。いつも通り目を射るばかりの眩しい太陽がそこにあっ
た。
「……ん、森の民?この砂漠のど真ん中に森なんかあるのか?」
「はい。そこにだけ定期的に雨が降りますので、植物が繁茂しているのです」
「ミョーな気候をしているんだな、ここは」
この世界には砂漠しかないと思っていた島原には、森が存在するということが意外で
あった。同時に、確かにこの世界は自分いた世界とはどこか違うらしいとも感じていた。
もっともそれが異界たる証しになるとは思っていなかったが。
 だらだらしながら歩き続けること半日。地平線の彼方にぽつりと黒い塊が見えだした。
さらに歩みを進めるとそれは大きくなってゆき、次第に森の形を呈するようになった。
「うん、森だ」
島原は感動した様子もなく、単純にぽつりと言った。
 近付いてみると、かなりの広さを持つ森だと解った。ちょっとした山のような感じである。
島原はその木々の先端を見上げた。かなり高くまで伸びていて、天まで届いているので
はないかと思えた。樹木の種類は解らなかったが、日本の森林とは明らかに違っていた。
まるで外国映画に出てくる深い原生林のようであった。
 砂漠からうっすらと獣道のような細い道が続いていた。島原達はそこから森の中へと入
っていった。
「けものが〜通る〜忍び道〜……って歌詞が逆やねん」
森の中のひんやりとした空気に気分を良くして、島原は一人ボケ突っ込みをかました。久
々に味わう心地よさであった。まさしくオアシスだ、と島原は思った。
 だが、一息つくといきなり空腹感が蘇った。そう言えば例のコンテストで砂料理を食わさ
れて以来、まともな食事をしていなかった。ここへ来てようやく食欲が回復したようだった。
「う〜、なんか腹減ってきた。食えるものはないのか?」
あたりを見回すと、傍らの木に見たことのない実が房になって垂れ下がっていた。キゥイ
に似ているが、妙に毒々しい色をしていて表面に細い触手のようなものがびっしりと生え
ている。
「なぁ、食えるのか、これ?」
「さぁ、私も知りません」
部下Bは首を横に振った。
「どうにも怪しげな実だが……」
島原がそれに手を触れようとしたその時、
「待ちなされ。それに触ると刺されますぞ」
と鋭い声が飛んできた。
「なんだ?」
ほどなく、茂みの中から男達がぞろぞろと現れた。見ると全員迷彩服のようなものを着て、
頭や身体のあちこちに木の枝を巻き付けていた。
「刺されるって、木の実じゃないの、これ?」
「これは虫なのだ」
男達の一人、がっしりとした体格の頬に大きな傷を持つ男が言った。
「虫?そーは見えないけど」
島原は改めてその木の実を見た。よく観察すると表面の触手みたいなものがうねうねと
動いていた。確かに普通の果実ではないようだった。
「ヘンなものがあるんだな、ここは……に、しても誰だい、あんた達。それにその格好…
…」
「我々は森の民。そしてこれは我らの戦闘スタイルである」
頬に傷のある全身木だらけ男はそう説明した。顔にも迷彩塗装をしていて、殆どサバイ
バルゲームのプレイヤーだった。
「戦闘スタイルって、戦争でもやってんの?」
「いや、我々は長年この森に住む竜と戦っているのだ」
「リュウ?っていうと、原始少年……」
「違う」
「じゃあ……」
「むろん『リ○ウの道』でもなければ『番○惑星』でもない」
「うぬぬぬ……」
機先を制されて、島原はボケ損ねた。
「わ、解っているよ、竜だろ。けど、竜ねぇ……」
いきなりRPGの世界になった、と島原は思った。
「そいつってデカいの?」
「山一つ分くらいはあろう……ところであなた方は?」
「これは失礼。この方は救世主です」
島原が口を開くより早く、部下Bが前へ進み出てうやうやしく言った。その言葉に、森の民
の男達の間からおおーっという声が上がった。


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