第12話 旅の果てには

 島原の予感をよそに、街の入り口では全身を機械で覆った男が一行を出迎えた。
「ようこそ、鉄の民の村へ」
「またこのパターン?」
島原はいささかがっかりした。街の雰囲気から今までとは違う展開が待っているかと思
ったのだが、これまで訪れた村と何等変わりはなかった。
「なぁに今回が最後です」
「???どーゆーことだ?まさかここが旅の終着点とでも?アンド○メダやイスカ○ダ
ルじゃあるまいに」
機械男の言葉に島原は引っかかるものを感じた。
「いえ、別に深い意味はありませんよ」
機械男は言葉を濁した。顔も機械で隠れていて、見えるのは口許だけなのでその表情
を読みとることはできなかった。
 三人は機械男の案内で街へと足を踏み入れた。見上げんばかりの超高層ビル群と
洗練された街並みは、島原のいた二十一世紀の東京を彷彿とさせた。いや、それより
遙かに先進的に見えた。
「こりゃシド・○ードやギー○゛もびっくりだな」
思わずそんな軽口が出る。が、より目を惹くのは道行く人々の姿だった。眼前の機械
男と同じように皆全身に機械をまとい、口許や手の先だけがかろうじて人間の痕跡を
留めていた。目も怪しげなバイザーで隠れていて、暗視スコープような禍々しいレンズ
がぎょろぎょろと動いていた。殆どサイボーグである。
「ここの人ってみんなそんな格好してんの?」
島原が尋ねると、機械男は怪しげな笑みを浮かべて答えた。
「ええ。我々は機械との融合を果たした民族なのです。これにより我らはあらゆる感
情、思考、行動を制御することができるようになりました」
「そりゃすごい。じゃあ試しに悪口でも言ってみよーかな」
島原は軽く皮肉ってみたが、機械男は動じなかった。
「機械はまた、我々の教義でもあります。機械だけが人間を超越できる唯一の存在
です。機械に全てを任せれば、ミスは何一つありません」
「あ、そう……」
その考えは島原をゾッとさせた。どうやら機械崇拝の連中らしい。うかつに科学否定
的な言動はできないと思えた。
 三人は高層ビルの中でもとりわけ高い建物に通された。高速エレベータで一気に
二五〇階まで登ったそこは、全面ガラス張りの広い部屋だった。
「うっひゃー、見ろよ、人がまるでゴミのようだ」
窓際まで駆け寄って、島原は驚きの声を上げた。
 そこへ一人の女性が飲み物を運んできた。珍しく機械を身につけていない、普通の
外見の女性だった。その姿は何故かみすぼらしく見えた。
「コ、コーヒーでございます」
女性はどこか怯えた様子でコーヒーをテーブルに並べた。先に席についていた機械
男はそれを一口飲むと、唐突に立ち上がった。
「ぬるい!砂糖の量が多い!」
そしていきなり女性の頬を叩いた。女性は抵抗もせず床に転がった。
「す、済みません。マニュアル通りにやったのですが……」
「言い訳はいい。今すぐ淹れ直してこい」
「は、はい……」
赤く腫れた頬を押さえることもなく、女性はすごすごとドアの向こうへ消えた。
「ちょ、ちょっと……」
さすがに島原は見かねて声を荒げた。
「これだから生身の人間はいかんよ。コーヒーの味が毎日違うんだから」
「そういう問題じゃないだろっ」
「あの女は機械化していない貧民層の卑しい者です。この街では一定の金額を払っ
て機械の身体を手に入れた者だけが市民権を得られるのです。それができない連
中など奴隷以下の価値しかない」
機械男は淡々と、それがごく当たり前のように言った。
「無論あなた方は別ですよ。旅人にはそこまで強制しません。ましてや救世主ともな
れば」
「………」
何かが違う、と島原は思った。
「それって差別じゃないのか?」
「何を言うのです?自ら労働によって市民権を得る、素晴らしい姿じゃないですか」
その機械男の言いようは島原に不快感を抱かせた。
「これがあるべき姿なのですよ。ま、ゆっくりしていって下さい。じきに慣れますから」
そう言い放って機械男は部屋を出ていった。
「冗談じゃない!慣れてたまるかっ。この街は何か間違っている!」
やり場のない怒りがこみ上げてきて、島原はそう叫んだ。その隣で、部下Bとあゆさ
んは不思議そうな顔をしていた。
「そうですか?この街ではこれが普通ですよ」
平然と部下Bはそう言い返す。
「……でも、あたしも何か違う感じがします」
一方であゆさんが疑問を呈した。島原の顔がぱっと輝く。
「そーでしょ、そーでしょ!」
「はい。今回はいやに真面目な展開ですわ」
「いや、そーじゃなくって……」
あゆさんまで楽屋オチに走るなんて……島原はほとほと困った。
 機械崇拝による科学信仰、貧富による身分差、これは今まで訪れたどの村でも見
られないことだった。この街だけが何故?島原はこれまでとは異質な、別の違和感
を覚えていた。


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