第4話 旅は道連れ、世は情けねぇ?

 これまでのあらすじ
 
 平和で穏やかな異界と呼ばれる世界に、ある日天空よりシマバラタカオと名乗る
自称悪の救世主が現れた。彼は甘言によって人民を惑わし、秩序あるこの世界を
混沌と無秩序の闇へと変貌すべく自ら破壊の王たることを宣言した。そして、つい
にシマバラは世界征服の第一歩を踏みだしたのである。どうなる異界?このまま
では地球が地球が大ピンチ!さあ、来週もみんなで見よう。
 ……はて、大体合っていると思うのだが?

 一夜が過ぎ、すっかり救世主気取りの島原は意気揚々と……でもなく出発しよ
うとしていた。
 が、
「何ですと。あの娘を一緒に連れていきたいと?」
老人の口調には不満がありありと見てとれた。
「そうそう。RPGじゃ回復系のヒロインはつきものでしょ。一人きりだなんて、パー
ティとしてバランス悪すぎるって」
島原は旅の伴侶として自称少女Aを指名してきたのであった。
「しかし、救世主は独力で救いの道を拓くもの」
「なんのなんの。救世主の自覚を促すには清らかな乙女の助けが最も効果的と、
この『わずか一週間で驚くほどスッキリ!これであなたも救世主』にしっかり書い
てありますぞ」
どこから持ち出したのか、島原はさも怪しげな本をちらつかせて力説した。
「これはかのキリストや仏陀も読んだという有り難い教典なのです」
大嘘つきであった。しかし、老人や周囲の人々は何となくその主張に説得されて
しまった。
「……致し方ありませぬな。彼女を同伴することを許可しましょう」
老人は渋々承知した。島原は得心いったといわんばかりに大きく頷いた。だが、
ここに大きな陥穽があった。
「ただし、彼を道案内として連れていっていただきたい。この世界の地理には詳
しいですから、きっとお役に立ちますぞ」
そう言って紹介されたのは、あの方向音痴な青年であった。
「あのねー、だってこいつは方向音痴ですよ。道案内が道に迷っていたらどーし
ようもないでしょーが」
「ですがこれが条件です」
老人はきっぱりと言った。撤回する気は毛頭ないらしい。
「う゛ー……」
島原は唸りつつその条件を飲んだ。しかし、こうしてみると本人の意思とは全く
関わりのないところで人事が決定しているのだからある意味理不尽である。気
分は殆ど突然転勤を言い渡されたサラリーマンであろう。
「まぁ、あたしを一緒に?」
だが自称少女Aはその決定に屈託なく喜んでいた。
「嬉しいです。救世主のお供ができるなんて。でも何故あたくしを?」
「え……」
島原は返答に窮した。全くもって個人的な理由だったからだ。つまり、彼女が美
少女だからである。
「そ、そりゃあ、その……まぁ、そーいうことで」
「はぁ……」
島原がしどろもどろしていると、
「まぁ、私を一緒に?」
少女と同じ口調であの方向音痴青年が駆け寄ってきた。
「お前なー、気持ち悪いんだよ」
「でも何故わたくしを?」
「あの老人が連れていけって言ったんだよ」
島原は冷たく言い放った。
 それにしても、と島原はつくづく不思議に思う。
「あんたらって、ホントに名前で呼び合わないんだな?」
「名前?」
自称少女Aに尋ねた時と同じように、青年もその問いにきょとんとする。この世
界ではそれが普通なのであろうか。
「うーん、何にしても少女Aじゃ呼びにくいな……」
島原は少女に向き直ると、少し考えて、
「じゃあ、何か愛称をつけてあげよう」
と提案した。
「ホントですか!」
「うん……そうだな、あゆさん、ってのはどうかな?」
それは島原の元いた世界での恋人の名であった。他に良い名前も思いつか
ず、呼び慣れた名だったので島原はそう口にしていた。雰囲気がどこか似て
いるというのもあった。
「『あゆさん』、ですか」
「『あゆ』さん、なんだけど」
「『あゆさん』、ですね。救世主に愛称をつけていただけるなんて、とても嬉し
いです!」
結局彼女は『あゆさん』を自分の愛称だと思い込んでしまった。喜んでいる
ようだし、ま、いっか、と島原はそれ以上訂正するのをやめた。
「あのー、私の愛称は?」
その隣で、方向音痴青年がさも物欲しそうに尋ねた。
「お前は部下Bで充分だ!」
島原は即断でそう決めつけた。こうして島原、あゆさん、部下Bの救世主様
御一行ができあがった。
 陽が高くなった頃、簡素な荷物を背負って島原ら三人は盛大な見送りの
中出発した。
「救世主万歳ーっ!」
「バンザーイ」
「バンザーイ」
「バンダーイ」
人々は何故か日の丸を振って万歳三唱をしていた。何やら出兵でもする
気分である。島原は呆れつつも、手を振ってそれに応えた。
「しっかしまー、何だってあんなに喜んでいるんだろーね」
谷を抜け出し、再び砂漠を歩き出してから島原がぽつりと言った。
「それはもう、救世主は私達の希望ですから」
あゆさんが嬉々として言い切る。

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