雑感1 作品をとりまく状況
今更ながら「Zガンダム」について雑感を書いてみたくなりました(笑)。改めて振り返ってみる
と、信者の方々に背中から刺されそうですけど(苦笑)「Z」の時の富野監督って一番傲慢だった
時期なんじゃないか、と言うか傲慢にならざるをえない時期だったんじゃないかという気がしたり。
長年富野作品に関わったスタッフの証言でも「監督はZから逆襲のシャアの頃が一番ピリピリし
ていた」というのがあったりしますし、あながち間違ってはいないような。
語り尽くされたことではありますが、「Z」の企画は「ダンバイン」放送中の頃から既に始まって
います。LD-BOXのブックレットに掲載された富野メモを読むと、当初は「ギャザー・スタイム」と
いうニュータイプに代わる新たな概念を提示しようとしていたみたいです。そしてストーリーの根
幹はシャアの逆襲劇になる、というのはテレビ放送前の記者会見でも触れていました。
ですが出来上がった作品はご覧の通り逆襲どころかシャアが行方をくらまして終了、という結
果に。この紆余曲折ぶりを見るだけでも、「Zガンダム」は富野監督の構想した基本ストーリー
から逸脱し、消化不良のまま終わってしまったことがうかがえます(1話に登場して後にアーガ
マのクルーになるはずだった空手部キャプテンは?設定はあるのに一度も登場しなかったア
ブ・ダビアは?密かにアクシズを探っていたキグナンはどこへ?と使われないままの設定が色
々と残っていたりします)。その経緯は2ちゃんねるあたりでも散々語られているので割愛しま
すが、要は思惑通りにな
らない事態が山積して、富野監督がエゴイスティックに作品づくりをせ
ざるをえない状況だったのではないかと思えてしまうのです。
だってねぇ、安彦氏には「キャラデザはやるけど作画はやらないよ」と冷たくされ、総作監を頼
んだ湖川氏には「パート2ものなんてやりたくない」と断られ、メカデザとして推した永野氏はスポ
ンサーからダメ出しされ、演出の要だった今川氏には逃げられ(いつも自分の作品の1話は必
ずコンテを切る富野監督が、「Z」だけは今川氏にコンテを任せている点からも期待は大きかっ
たのではないかと)、初期のライター陣はみんな降りてしまい、あげく放送が始まってもZガンダ
ムのデザインが決まらず・・・と、そりゃカミーユじゃないけどキレるわな(笑)。当時雑誌のインタ
ビューで現場スタッフが堂々と「何をやってるのか分からない」「ハッキリ言って面白くない」と公
言しているあたりからも、相当に富野監督のワンマンで制作が進んでいたことが想像出来ます
(安彦氏も「富野監督は自分さえ分かっていればいいんだという感じだった」とコメント)。なまじ
準備期間が長くやりたいことが多かっただけに、実作業の混迷ぶりに耐えかねて「じゃあ全部
自分でコントロールしちゃる」となったのではないかと、あのギスギスしまくったフィルムを見てい
ると感じてしまいます。それでも当初の予定通り「現実認識の話をやる」「カミーユは最後崩壊す
る」というコンセプト(実は最初の記者会見に寄せたコメントでちゃんと書いてあったりします。別
に「ZZ」があったからあのラストになった訳ではない)を貫いたことは、富野監督の意地というか
執念というか、凄さだったと思えます。
それだけに、元々予定していたストーリーがどういうものだったのか知りたくなってしまうのです
が(断片的には判明していますけど)、出来上がったフィルムが全てですから、こんなifを20年
以上たった今求めてもナンセンスですよね。後に劇場版という救いがあったにせよ、不完全で
いびつな作品だったからこそ「Z」は何かしら惹きつけるものがあるのかもしれない、とそんな愚
考をしてみる次第です。
(09/06/12)
※雑感補足
「Zガンダム」放送の前年にあたる84年、アニメ雑誌の片隅に「富野監督がガンダムの続編
小説を執筆。タイトルは逆襲のシャア」という告知がありました。残念ながらこの企画は「Zガン
ダム」制作にともない流れたようですが、「Z」の情報解禁時マスコミ向けに発表された富野監
督のコメント文の中に「サブアタックタイトルは逆襲のシャアである」という一文があったりします。
雑感で触れているように結局「Z」でその構想は果たされず、「ZZ」、そして映画「逆襲のシャア」
まで持ち越されることに。
バンダイによるガンダムのプラモデル「MSV」シリーズは84年の段階でほぼ商品展開を終え
ており、次の企画として「MS-X」というシリーズが発表されていました。ですがこれも「Z」制作に
ともない消滅。ただし先行してデザインが公開されていたモビルスーツのうちアクトザクは「Z」
本編に登場。ガルバルディとドワッジは名称のみ「Z」「ZZ」で流用されました。
「巨神ゴーグ」を終えた安彦氏は自身の漫画「アリオン」の映画化を企画していましたが、日
本サンライズから「Zガンダムとダーティペアのキャラデザをするなら映画化を許可する」という
条件を出され、「Z」はキャラデザのみ参加、「ダーティペア」は土器手司氏にデザインを頼むこ
とで「アリオン」の映画化に漕ぎつけました。
このように「Zガンダム」に対する周囲からの期待と重圧はすさまじく、「約束されたヒット作」と
して放送が始まることになります。
もどる すすむ