雑感2 Zガンダムの初期構想

 以前から取り上げようと思っていた「Zガンダム」の没設定についての覚え書きを、実に今更で
すが放送当時の記憶を交えて列挙してみたいと思います。
 「Zガンダム」はそれまでの功績から富野監督がかなり自由に作らせてもらえた作品と放送中
は言われていましたが、一方で諸事情により当初予定していたストーリーの半分も消化出来な
いまま終わってしまったことが、放送終了後に言及されました。では元々予定していた話がどん
なものだったのか、勿論当時は公にされることなどなかったのですが、93年に「Z」のLD-BOXが
発売された際ブックレットに大量の富野メモが掲載されて、断片的に知ることが出来るようになり
ました。
 初期案の概要については後年ムック本にも載ったり、ディープなファンがあちこちでまとめても
いるので(下記リンク参照)それに便乗するとして(笑)、興味深いのは「Z」の企画が「ダンバイ
ン」放送中にスタートしていること。つまり「めぐりあい宇宙」公開の翌年には既に続編の企画が
動いていたことになります。作中で7年の時間経過があるため数字のマジックに騙されがちです
が、実はファーストガンダム(映画版)とZガンダムの間には3年しかインターバルがなかったり
します。してみると、メカデザインや作画レベルがこの数年の間に急激にクオリティアップしてい
るのが見えてきてなかなかに面白いです。
 あと初期の構想で目を惹くのは、ニュータイプを更に発展させたギャザー・スタイムという新しい
概念を導入しようとしていたことです。これは肉体という枠にとらわれない他者との完全な精神の
同化ともいうべきものだったようで(ある意味“人類補完計画”?なんて書くと富野監督は激怒し
そうですが)、その名残が「Z」最終話に活かされていたりします。ただしその行き着く先は死かも
しれないと、カミーユの精神崩壊が最初から予定していた結末だったことも富野メモからは伺え
ます。「ダンバイン」制作中で肉体と精神の関係性にこだわっていた時期だったからこそ、こうい
った概念を考えていたと見るのは早計でしょうか。
 準備期間は長かった割にスケジュールがガタガタだった「Zガンダム」。最初にアニメ誌に掲載
された設定画ではガンダムMk-2のデザインが本編のものと違っていたり、キャラの名前が異
なっていたりと、設定が決定したのがかなり遅い時期だったことが放送初期から見え隠れしてい
ました(おかげで「Z」1話を見た時は「Mk-2のデザインが違う?」と思ったものでした)。一番分か
りやすいのはZガンダムのデザインの変遷で、前期オープニング制作時にはまだ決まっていな
かったため、映像ではシルエットのみ登場。それもツノがない仮デザインのものでした。放送が
始まって最初期に発売された講談社のムック本(85年5月頃だったかと。部屋のどこかに埋もれ
ているはずですが、発掘できず)で初めてZガンダムのデザインが公開されましたが、それも決
定稿とは微妙に違うものでした。
 実際の「Zガンダム」がどこまで初期の構想通りだったのかは、どうやら10話までは予定通り
だったらしいというのが通説になっているようです。8話でエマが「地球にいた時アムロに会った」
と唐突に口にしますが、これは後にジャブロー戦でエマも地球に降下して、アムロ復活に影響を
与える展開への伏線であった模様。ですがアニメ本編のエマは11話で地球降下を断念してい
るので、確かにこの辺から当初の構想と違ってきていると言えそうです。それとアムロは元々
ホンコン編で死ぬ予定であったと当時のアニメ誌で明かされていました。1話に登場し後にメカ
ニックとして参加するはずだった空手部キャプテン、アクシズの動向を探る役回りで1回のみ
出てきたキグナン、キャラ表だけ公開されて本編に登場しなかったアブ・ダビア、カラバが攻
撃するはずだったニューギニアのティターンズ基地等々、「Z」は活かされないまま終わったシ
リーズ初期の伏線が多く見られます。ここまで伏線が立ち消えになった富野作品も珍しく、い
かに紆余曲折したかが分かるかと。
 「ガンダムZZ」の企画がどの時期に決まったか定かではないですが、「Z」が3クール目に入
ったあたりには既に決定していたのではないかと個人的には思っていたりします。カミーユの
成長物語としての「Zガンダム」が20話で終わってしまっていること、22話~29話あたりの話の
流れがギクシャクしていること(ジェリドがドゴス・ギアにいたかと思えば次の回ではアレキサン
ドリアにいたり、カツがラーディッシュにいたかと思えばアーガマにいたりと、脚本の整合性が
取れていないのが目につきます)から、この辺で予定していたストーリーを次回作へ持ち越す
ための大幅な変更が始まったように感じられるからです。つまり「予定の半分もストーリーを
消化出来なかった」というのは、3クール目以降の展開が「ZZ」へ向けて引き延ばし状態に
なったためではないかと推察する次第。
 「ZZ」も当初はシリーズ中盤でシャアが登場しネオジオンを掌握、それをジュドーが倒す予定
でしたが(オープニングにシャアが出てくるのはその名残)、「逆シャア」制作が決まったためそ
の役回りをグレミーが肩代わりした経緯があります。しかも「ZZ」は放送開始時点で2クール予
定と発表されていたので、「Z」後半のストーリーをキャラだけ変えて移植するつもりだったと考え
ることも可能???してみると、「逆シャア」は「Z」のシリーズ後半(更には「ZZ」初期案)でやろ
うとしていたことをアレンジして映画にまとめた、と見ることも出来なくはないかと(富野監督も
「逆シャア」のインタビューで「Z」の焼き直し的なことを言っていましたし)。
 初期の富野メモではシロッコがシャアを倒し、それを契機にカミーユがギャザー・スタイムへ
覚醒すると書かれていますが、アニメ誌での企画発表時には「Z」のサブアタックタイトルが「逆
襲のシャア」と明記されていることや、上記の「ZZ」初期案からすると、カミーユ達がネオジオン
を掌握したシャアと対決するというのが元々の「Zガンダム」後半のストーリーだったのではない
かという気がします。映像化されたものが全てであり、今更あれこれ推測しても想像の域を出る
ものではありませんが、色々な意味で歪な作品となってしまった「Zガンダム」だからこそ、こうい
う夢想をしてみたくなってしまいました。  
 http://fururingo.blog15.fc2.com/blog-entry-60.html
 

                                                  (12/04/04)


※雑感補足

 放送当時のインタビューを読み返すと、視聴者やスポンサー等からの指摘や批判を受けて軌道
修正を図っていたのがちょうど3クール目あたりだったようです。「ティターンズがどういう組織が分
からない」という意見があり、「ティターンズが怖くて強い敵だという描写を増やします」と富野監督
が答えているので、コロニー落としや毒ガス作戦はその具体的なエピソードだったと思われます。
他にも「エゥーゴの規模が分からない」という指摘に「月面都市全体がエゥーゴの基地みたいな感
じにしたい」と回答し、23話や24話の描写に繋がっている模様。あと「登場人物の平均年齢が高
すぎる」と気付き、シンタとクムを出したみたいです。
 それと具体的な時期は分かりませんが、「Zガンダム」放送延長案が出されて75話まで増やすこ
とが検討されていたので(最終的に「Z」は50話で終了し、タイトルを変えて続けることに決定。これ
が「ZZ」になります)、シリーズ中盤の中だるみがひどいのも放送延長を見越しての水増しエピソー
ドだったのかもしれません。最初期からデザインが公開されているハマーンの登場が32話と遅め
(アクシズの存在も8話ですでに匂わせています)なのも、そのあたりの事情があったのではと個人
的には推測しています。


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